Spotlight
かように音楽のことばかり綴っておりますが、実を申せばグラミー賞よりアカデミー賞派です。
確実と言われた作品がまさかの番狂わせで獲れないとか*1
ディカプリオさん今年も主演男優賞獲れないとか
誰が失言で炎上するかとか
昔ハードボイルドで鳴らしたイケメンでも鬼畜おじいちゃんが何歳まで賞獲りレース続けるのかとか*2
映画評論家の町山智浩さん予想がどんだけ当たるかとか
オスカーにはそういう楽しみ方があるんですよ!
いや、あったんですよ…
ディカプリオさん今年遂に受賞しちゃいましたね…
彼の映画界での立ち位置を象徴するような地獄の淵からこんにちは映画で…
アイル、ビー、バーック*3ってかアイヴ、ビーン、バーーーーーーック!!!!!
ですよ…
3度目ならぬ6度目の正直。
通常の正直の2倍かかってますね、相当な真っ正直ですね。
なんせ一回引退までしたのに復帰して賞さらいにきましたから。
ここで受賞しなかったら町山さん曰く「怖い」「もう何をされるかわからない」ほどになっていたわけですよ*4。
アカデミー会員様はスターがお嫌いらしいです。
日本で人気のハリウッドスター様。
ブラピ様、ジョニデ様、そしてあのトム・サイエントロジー・クルーズ様。
みいーーーーーんなオスカーの主演男優賞には*5ご縁がございません!
(全員ノミネートはされてる、それが余計気の毒)
余談ですが私はアルゴ以来ベンアフ好きなのですが、彼は数年前アルゴで監督として作品賞獲ってますが監督賞は獲れなかった、どころかノミネートもされなかったんですよ。
JLoさんといちゃつきすぎて干される等の辛酸なめてますから。
その結果、史上稀にみるオスカーノミネートなしの全米監督協会賞受賞者になってました。*6
選考委員ってか風紀委員じゃねーかヲイ。
アカデミー賞の選考委員って?
http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000115871
町山さんが語るアカデミー賞とディカプリオ
http://machiokoshi666.blog.fc2.com/blog-entry-50.html
町山さんによる今回の振り返り(クソワロ)
http://miyearnzzlabo.com/archives/36341
その名のとおりガチのアカデミック。
つまりは保守系老害政治家のような(失礼)。
もしくは「あーらハナさんったら少し煮物のお味が濃いようじゃございません、最近の若い人は何ですのほら、化学調味料とかお使いになるようですし、あたくしどもの時代にはコンブにかつぶしにシイタケしかなかったもんでございますからね、いやあねえ年よりは味覚が古くってごめんなさいね」とかいう嫁いびりお姑さんのような(これまた失礼)。
はあはあ。日暮れて本題遠し。
要するに何が言いたかったかっていいますとね。
そんな文字通りのアカデミック老害が選んだ去年いちばん面白かったアメリカ映画=アカデミー作品賞が、本日のタイトルの「スポットライト 世紀のスクープ」なんですよ!
だけどゴールデンウィークが10連休になったもんだからさすがにレジャーらしいことしたくってとりあえず映画でもみようかってなってたぶん10年ぶりくらいにわざわざ映画館にみにいったんですよ!
もうこないだ映画館でみたのなんていつだったか覚えてないよ!*7
かように今までディカプリオさんで盛り上がってきたのに何で受賞作のレヴェナントじゃなくてこっちにしたかってそれはね、ディカプリオ映画が3時間近くもあるからなんですよ!!!
長いよ!!!!!*8
という消極的な理由でみたにもかかわらず。
2時間が40分くらいにしか感じられないほど夢中になってしまった。
保守老害(超失礼)の太鼓判だろうが何だろうが。
本当に素晴らしい映画でした。
****
スポットライト 世紀のスクープ
http://spotlight-scoop.com
さっくりなあらすじを述べますと。
かなり忠実に実話に基づいた映画だそうです。
ボストンが舞台。
2001年にゲーガンという神父が少年を性的に虐待した罪で訴えられていたが、裁判の結果、示談になったという事件が地元紙ボストン・グローブの小さな記事になった。
その神父は過去にも同様の性的虐待で訴えられていた。
記事は、示談にしたらまた同じことが起きるだろう、と締めくくられていた。
そこへマイアミから来た新しい編集局長が着任。
この事件を掘り下げて取材するよう指示する。
カトリック教会絡みの案件には触れないのが地元では暗黙の了解だったが、よその土地から来たユダヤ系の新編集局長にはそんな縛りはなかった。
“スポットライト”と呼ばれる特集欄を担当するチームの5人が調査を始める。
やがてその神父に限らず、他の神父も含めた何百件にものぼる性的虐待と教会ぐるみの隠蔽工作が明らかになる。
神父らは、
貧困家庭で、
父親がいない、
内省的な子を、
選んで餌食にしていた。
訴えられるリスクが小さく、たとえ訴えられても立場が弱いために金で解決できる家庭の子どもを選んで虐待していた。
文字通りの聖職者がこの上なく卑劣な人権侵害を組織ぐるみで行っていた。
そして同じ地域の人間は地元では絶対的な信頼と権力を持つ教会内部にメスを入れることは決してなかった。
記者らは地道な聞き込みや気の遠くなるような調査や内部への探りや圧力との駆け引きや自身の葛藤や9.11に配慮した公開の遅延やとにかくいろんなものに長期間にわたって取り組み続け、確たる証拠を集めて、記事にする。
記事が刷り上がった日曜の朝の編集局がラストシーン。
****
いや本当にすごい話でした。
神父の罪を暴くのではなく、システムを糾弾して改善することが記事の目的で、それを成し遂げた。
事実であるからこそ感動もひとしおでした。
まずボストンがこれほど保守的な都市だとは思いませんでした。
先進的な学園都市ってイメージでしたから。
過去の裁判の証拠書類である公開資料が裁判所内部であっさり紛失してるんですよ。
ガチ隠蔽です。
学校にも神父がいて、部活まで受け持っていたりするとか…でもこれはカトリック系の私学校には普通のことなのかな?
しかしそこでも虐待起きてます。
この種の人権侵害は、ありとあらゆる集団内で発生するし、弱い立場の者が狙われるし、権力によって隠蔽させられたり羞恥心から自分で隠蔽してしまうことが多々あるのは知っています。
それが教会によって行われた場合、それが信仰を脅かす二重苦になると被害者が語っていました。
だから被害者は皆「生き残った者(survivor)たちなんだ」と。
この驚愕ばかりの映画中で、私がいちばん驚いたのは、そのように死ぬほどの苦しみを受けてもなお「でも信仰は別なんだ」と語った、別の被害者の言葉でした。
子どもが自殺するほどの精神的苦痛を受けながらも捨てなかった信仰とは何なのか、その強さはどこから来るのか。
結婚式でクリスチャンになって葬式で仏教徒になる大半の日本人(含む私)には、信仰とはどんなものか正直理解しがたいです。
発想の転換とか、周囲の愛情とか、自分への自信とか、未来への希望とか、もしたら皮肉にも信仰そのものが、被害者を生き残らせたのかもしれない。
妻も子どももいるんだ、メモはいいが実名はやめてくれ、と取材の冒頭で嫌がっていた彼が、取材が終わって去り際に、名前を出してもいいよ、とそっとつぶやいたのも印象的でした。
最後に。
スポットライトというのは実際の特集欄の名前なんでしょうが、ラストで明らかになったチームのデスクにまつわる事実とそれに対して編集長が述べた「光が当たるまでは…」というひと言。
脚本賞受賞もなるほどと思う素晴らしい台詞でした。
私もこのような組織ぐるみの隠蔽や人権侵害を、無意識どころか意図的にも見過ごすことがあることはよく自覚しておきたいと思います。
その上で個人ではなくシステムを改めるよう動きたいものだなと感じます。
派手な演出も斬新な特殊効果も素敵な音楽も使わずスター俳優さえ起用しない。
でもきっちり作品賞と脚本賞。
納得です。
あ、あと撮影監督が日本人です。
マサノブ・タカヤナギさん。
世界にひとつのプレイブック*9撮ってる!たしかにあのすっきりきれいにみせる光の感じ。すごいなあ。
町山さん解説もありました
http://miyearnzzlabo.com/archives/31555
やっぱ映画は映画館でみないとね。
お茶飲んだりスマホいじったり関連事項ぐぐったりせず映画そのものに没頭できるからね。
トイレを気にせずビール飲みながら人を駄目にするソファにおさまってみる名作も止められないけど笑
いやー、映画って、本当にいいもんですね!
(水野晴郎の名言より)
処でちょっとしぼむ後日談。
この新聞社購読者減少により売却されてますね…
だからラストのクレジットにレッドソックスの名前があったのか…
世の中難しいね…
http://www.afpbb.com/articles/-/2959764?act=all
*1:主にブロークバック・マウンテンの悲劇を指す。作品賞のプレゼンターだった大大大好きなジャック・ニコルソン様がついwhat happened?って言っちゃった案件です
*2:やだおじいちゃんったらまだ殺る気… http://eiga.com/news/20160317/16/
*4:ディカプリオさんの実力からして獲れないのは圧倒的におかしいです。他の方々もそらおいしくいただける高級フレンチ級のお芝居ですがディカプリオさんは宮廷料理ばりのフルコースにまで仕上げてきます。どんだけ基礎が違うかは若き日のジョニデと共演してたギルバート・グレイプでもみるよろし。下手に昔お顔が可愛かったもんだからタイタニックなんかに出てアイドル扱いされちゃってかつ本人も調子乗ってましたが俳優としてのキャリアを鑑みると逆に可愛かったお顔が邪魔しちゃった感ありますよね。あ、ちなみに私タイタニックみてません。
*5:ブラピ様はそれでも夜は明けるの製作で作品賞獲ってますね。ベンジャミン・バトンは素晴らしい挑戦でしたが相手が悪かったですね。ショーン・ペンがハーヴェイ・ミルクじゃ勝てないよー。あとブラピ様はやっぱり嫁がすごいですね。
*6:これな。 http://m.elle.co.jp/culture/celebgossip/Ben-Affleck-Wins-Directors-Guild-Award-for-Argo-I-m-on-My-Way-13_0205
*7:こないだ彼氏がいたのいつだったか覚えてないのと一緒だよ!だってほら映画館行かなくてもTSUTAYAとかWOWOWとかHuluとかで好きな映画もおまけにドラマもみられるじゃん≒彼氏いなくてもほら…うん…言わぬがハナ
*8:まあでもやっぱみにいこうと思いますよ一応。なんかほら、熊に襲われるとこみたいし。 レヴェナント:蘇えりし者 [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
*9:超余談ですがこのタイトルをプレイブックじゃなくてプレイバックだと間違えてましたね〜。ジェニファーローレンスの仏頂面が光ってました。人格障害すれすれのShall we ダンス。いい映画です。あとデニーロの無駄遣い具合がすごくてもはや津川雅彦w
Purple Rain
ボウイさんに続き。先日プリンスが亡くなりましたね。
- アーティスト:スフィアン・スティーヴンス,ビョーク,カエターノ・ヴェローゾ,ブラッド・メルドー,カサンドラ・ウィルソン,サラ・マクラクラン,ジェイムス・テイラー,エミルー・ハリス,エルヴィス・コステロ,k.d.ラング
- 発売日: 2007/06/27
- メディア: CD
*2:大学院卒業旅行のニューヨークで調子に乗って訪れました。当時近隣都市に住んでた友人Nにさんざんつきあってもらって。Nと「超わかってるふりしようよ」「イイね」って腕ぐみして聴いてました。とはいえわかってるふりしなくてもあっさりうおお、ってなりました。本当にいいものだと素人にもよさがわかるんさね。あと両親を連れてきたらしい9歳くらいの男の子のお客さん(連れられて、ではない、彼が連れてきたのである)がステージに上げられて本気でドラム叩きだしたら止まらないしプロ並みにうまいしでお客さんじゅう大拍手だったな。いい思い出。
*3:以前書いた気がしますが、大学時代に脱構築というたら上旬の友人Nとの間でセックスしたということを指していましたっけ。青いですね恥ずかしいですね。←淀川長治調で
*4:処でジョジョのキャラとか色づかいがときどきプリンスを彷彿とさせるんですが気のせいか。どなたか何か関連情報ご存じでしたら教えてください。いやggrksですかね。
American Pie
先日のエントリーを書いた矢先。
デヴィッド・ボウイさんが亡くなられたそうです。
ボウイさんはずっとかっこよかった。
どの時代も前衛的だった。
火星人は言うに及ばず。
インターネットが普及し始めた頃に超かっこいいメンバーサイト開設したり。
ヴィクトリア&アルバート博物館の展覧会も大盛況だった。
そんでずっと美しかったなあ。
いちどは生でみたかったのに間に合わなかった。
私の10代終わりのしょうもない時期を支えてくれたスーパーヒーローでした。
なんたって浪人時代のセンター試験の思い出がジギースターダストなんだよね。
この時期ずっとそのアルバムばかり聴いていたから。
たぶんまだ結構そらで歌える。
- アーティスト:デヴィッド・ボウイ
- 発売日: 2014/01/29
- メディア: CD
そいや7年前のエントリーでも「ロックンロールの自殺者」のこと書いてましたね。
このアルバムの最終曲です。*1
(サビ冒頭)
Oh no love! you're not alone
You're watching yourself but you're too unfair
この“too unfair”というひとことにやられたんですよね。
unfairですよ。
wrongとかじゃなくて、unfair。
Weblioの例文一覧とかみてみてくださいよ。
地球に堕ちてきたスーパースター。
とうとう火星に還ったんですかね。
69歳って年齢もまさにできすぎのような気もする。
本当にありがとう、どうぞ安らかに。
きょうのタイトルは好きなアーティストが亡くなったとき必ず聴く曲です。
The day the music died.
長すぎるけど歌詞もぜひみてほしい。
どなたかのサイトから転用させていただきます*2。
なおマドンナもカバーしてます。*3
Merry Christmas, Mr. Lawrence
クリスマスに間に合ってない感がものすごいですが。
こないだWOWOWでクリスマスの夜にやってたのをみました。
意味がわからないのに泣けてしまう映画のシーンというのが自分にはいくつかあるのですが、
この「戦場のメリークリスマス」もそんなシーンを含んだ映画であります*1。
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2013/11/23
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ラストでたけし演じるハラが言い放つ、
「めりーくりすます、めりーくりすます、みすたーろーれんす」
で本当に意味がわからないんだけど、涙腺崩壊です。
あらすじとかはまあウィキペディアさんにおまかせするとして。
例によって思い入れとかを書きなぐります。
若かりし日はそりゃーデヴィッドボウイ美しい、でみてましたけど*2、
大きくなってからみるとなんでしょうね、
ディスコミュニケーションの悲劇、ってのがテーマだったのかなと思います。
人種とか性別とかを超えて人間同士がわかりあおうとすると、
極限状況下ではたいてい命がけになってしまう、ってことかなと。
もしくは、人の価値観を変えようと思ったら、命を差し出すくらいの犠牲をはらうものだ、ってことかなと。
戦場が舞台なのでどうしても命がけになりますが、戦場でなくてもそうなのかも*3。
最近、とある人からハナさんは戦争ものが好きなんですね、って言われて、
改めて見返したところ、たしかに戦争ものも多いなあと思ったものの、
私は結局なんというか極限状況系が好きなんだなと気づきました。
極限状況下に置かれたときに人が何を感じたりどう行動したりするか、
むきだしのやばい部分をみたがりなんだなと。
戦争系はもちろん、ホラー系が好きなのも多分そう。
でも、だれかのリアル体験をドキュメンタリーとして知るのではなくて、
擬似的に知ることができるフィクションとしてみてみたい。
たとえばコーヒーいれるかのように、
リアル体験をフィルターにかけてろ過して、
抽出された結果フィクションになった状態のものをみたい。
リアルに来てほしくはないんですよ。
来ちゃったら考える余裕なんかないし。
むしろ一目散に逃げます。
あと変な考え方だけど、リアル体験は必ずしも本質とも限らない、と思うのですよ。
リアルに付随するものをそぎ落として普遍化したものがフィクションであって、
そのそぎ落とし段階で、ものの本質がなんというか結晶化されるんじゃないかという気がしています。
例えば同じような戦争のドキュメンタリーをみて、
へえ大日本帝国軍の30代男性軍曹だとそういうふうに感じるのかー、ですませがちなところを、
フィクションにされるとなぜか自分の体験のように感じられるっていう現象ですね。
いちばん大事なところをとりだして、共感できる形に加工してみせているからなのか。
宝石の原石を磨いてきれいにするようなイメージかな。
だから加工していないリアル体験より、結晶化されたフィクションのほうが本質に感じられる、こともある。
フィクションのほうがリアルにまつわるあれこれの条件を批判とかせずに、かえって素直に受け止められる、人もいる(私とかね)。
あー夜ってやっぱ変なこと考えるもんだな。
さてキャストの話をします。
ボウイさんは完璧に美しいのでいうまでもないのですが、
この映画、キャストではなんといってもたけしが最高です。
のちに世界的監督になるのも納得。
「わたし、ふぁーてるくりすます!あっひゃひゃひゃひゃひゃ」とか。
どんだけうまいんだこの人、と改めてみると仰天しました。
私は芝居とは説得力であると思っています*4。
そういう人間がそういう空間でそういう行動をとることを何の負荷もなく出現させてみせられるのがうまい役者。
演技がうまいといわれる役者は、実はその時点ですでにまずい。
だって演技しているのがばれちゃってるわけだから。
そこでいうとこの映画でのたけしはまじで天才です。
完全にハラ軍曹として存在しています。
なにせラストはたけしのどアップですからね。
監督も思わずたけしでしめちゃった的なね。
一方、クッソど素人な坂本龍一は、逆に印象に残るのでそれもいいんじゃないかと思います。
下手も下手なんですけど、それはそれでありだなと思うなんか変な良さがありますね。
ミュージシャンだのお笑いだのかき集めたイロモノキャスティングが大成功。
たけしも凄かったけど、要するに大島監督が凄かったんでしょうね。
ちなみに最初のほうの切腹シーンと後追い自殺。
実際は相思相愛だったから、なんて初見当時(たぶん10代の頃)は気づきませんでした。
ていうかそもそも同性愛事件の話だってことにも気づきませんでした。
単に私が鈍かったのか?おこちゃまだったのか?
*1:他には「セントラル・ステーション」というブラジル映画のラストシーンとか、「シェルブールの雨傘」のラストシーンとか。やっぱりラストはやばいですね。意味がわからないなりに傾向としては、明らかに泣かせ的な要素はないけど、気づく人には気づくようにそっと悲しさを差し出されるのに弱いみたいです。 シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(2枚組) [DVD]
*2:好きなタイプはデヴィッドボウイと公言していたあほな時代もありました。大学入学当時だったかな。友人が誕生日にボウイのLPくれましたっけ。渋谷陽一のすごく80年代っぽい解説がついてました。「○○ですネ!」とか語尾のねがカタカナでネだったりするのがなんか80年代っぽくないですかネ?!
*3:というのもですね、この間会社の研修で皆でわかりあおうみたいなのやったんですよ。そこでいろいろ前向きになれ的なメッセージがあったんですがそういうのは全く参考にならないわけですよ、はいはいあーいつもの前向きねはいはい前向きだといいですよね、って感じに心のうわっつらをすべるだけだったのですが、唯一本当に参考になったというか、心に響きまくったことがあったんですね。それは「他人は変えられない」というメッセージなのですよ。自分は変えられても、他人は変えられない。これですよ。自分の言い分で他人を説得とか、よくやりがちなんだけど、いや無理なんだよね!相手と同じ考えでない場合には!うまくやろうと思ったら、自分にとっても相手にとってもメリットになることを提供するしか説得の道はないんだよね。すごい、それだよ、そんな本当のこと教えてくれちゃうなんて感動。だから他人の価値観を変えるという、到底無理なことをねじ曲げようとするなら命がけレベルの難関というのもわからないではないです
*4:ただの映画好きが偉そうにいってますが、演劇のはじっこをちょこっとかじった経験はあるんだよ…高校時代にまさにこの映画のピアノ版をBGMにしてさ…時代劇パロディとかやってたんだよ…若かったね…異様に若かったね…
Dieu est un fumeur de havanes
葉巻のことを書こうと思う。こないだ葉巻を初体験したので。
吸った葉巻はまじりけなしのキューバ産。
シルバーウイークにキューバに旅行して、首都ハバナの専門店で買った。
ちゃんとした本物の手巻きシガー。
旅行は代理店主催のツアーにのっかって行った。ごはんもついてる楽ちんなやつね。
本当はフリープランのある個人旅行がよかったんだけど、なにせチケットが取れなかったし、逆に値段も高かった。
15人の日本人観光客とガイドさん1人から成るご一行様が、現地人のイケメンガイド氏に、まとめてぞろぞろとお店に誘導された。
ガイドブックにも載っているいわゆる有名店である。
薄暗い店内の、濃い色の木材で造られたカウンターの上に、アソート的なものをあれこれ並べてもらって、押し合いへしあいしながら選んだ。
(これはほかのお店でもそうなんだけど、キューバの店はラム酒博物館とかもなぜか一様に店内が暗かった印象がある)
私は太めのやつ5本入りと少し細めのやつ6本入りの2種類を選んで買った。
ツアー客の少々スカした感じの中年男性に「そんなに太いの買うの?マフィアじゃないんだから」とディスられたが。
太い方がむしろ吸いやすいらしいと事前に調べておいたので。
ちなみに同行の友人(9歳下)は「あの人ツアー客の中で一番嫌い」と言っていた。
キューバでは時間の感覚が圧倒的に違った。
アメリカに経済制裁を受け続けていた国である、つい最近国交回復してニュースになったけど。
そのため、生活用品にしろ建築資材にしろ、新しいものが入ってくるルートが限られている。
そのうえ共産主義国だから、政府が国内の経済を統制していて、普通の国民はさらに持てる資産が限られている。
だからもともと持っていた古いものを何とか維持して、状態をつなぎとめて暮らしている。
ハバナの旧市街は、スペインの植民地時代の建物がそのまま使われて、それが文化資産になっている。
名物のクラシックカーも、古いものを何とか使おうという工夫の結果である。
ちなみに最近になってやっと自営業の許可がでたらしい。クラシックカーでタクシー営業する人が増えたのもその影響だとか。
そんで飲食店やらタクシー運転手やらの自営業はキューバ国民的には勝ち組らしい。
一般家庭には未だに雨水を貯めるタンクがあって、生活用水として使っているときいて仰天した。
街の様子をひとことでいえば「退廃的」という表現になるものの、だめになる悲壮感みたいなものはない。
配給(!)や医療なんかの保障がしっかりしていて、貧乏で働けないことがイコール死にはならない。
つまり危機感がないからだと思う。
しかしまあ教科書にもあるように、共産主義の失敗の一因は、そんな危機感のなさに付随する労働意欲の欠如であり。
昼間からぷらぷらしているおっさんとか結構いた。
金持ちは税金ふんだくられるばかりだから逃げたくなりそうだし。
実際逃げるらしい、マイアミあたりに。ゴムボートで(!)
時間の感覚が違ったのはもちろん、こちらにも原因があって。
バカンスで、日本でのがさがさした繁忙を離れているからとか。
何よりネットがつなげないから気持ちにゆとりがあったんだと思う。
メールもツイッターも気にすることなかった*1。
ただ歩いて、ときどきシャッターチャンスに真剣になるくらいでよかった。
そもそも旅行の醍醐味って、名所旧跡をスタンプラリーみたいに追っかけることじゃないよね。
違う風景を楽しんだり、違う気候の違う空気を吸ったり、違うものを食べてだらだらしたり、とかそういうことにあるのだ、少なくとも私の場合。
スタンプラリーする奴らのことは「観光貧乏性」と勝手に命名している。
旅行先がなぜキューバだったのかというとアメリカとの国交回復のニュースがあったから。
実際にはそうなりそうというタイミングで申し込んで、回復前に間に合うかと思っていたのだが。
意外に動きが早く、行く直前に回復してしまって、シルバーウイークには既にアメリカ大使館が設置されていた。
アメリカという国は近代になってからはまじで世界の諸悪の根源だとずっと思っている。
理由はわんさかありすぎていちいち並べるのが面倒なので、身近な点を端的にいえば未だにやつらが日本を牛耳っているのが嫌である。
だからアメリカに負けていない国にはいいぞもっとやれとわくわくする。
小国ではベトナムが代表格だが、経済封鎖されたキューバもそうである。
ちなみに私の知っているベトナム戦争はといえば。
枯れ葉剤でシャム双生児としてうまれたベトちゃんドクちゃん*2と、映画「フルメタルジャケット」である。
お気に入りの箇所を特に疲れたときやへこんだときに思い出すと元気になれるのである*4。
「サーイエッサー!(Sir, yes, sir!)」とかはもちろん。
ほほえみデブの*5「セブンスィックストゥー、ミリメター、フゥメタール…ジャケーッ(7.62 millimeter, Full metal jacket)」とか。
ハートマン軍曹の「人種差別は許さん、黒豚、ユダ豚、イタ豚を、俺は見下さん。全て、平等に価値がない!」とか。
同じくハートマン軍曹の世界最強に下品な歌「母ちゃん父ちゃんベッドイン♪(Mama and Papa were laying in the bed)」とか。
キチガイ兵士*6の「逃げるやつはベトコンだ、逃げないやつはよく訓練されたベトコンだ」「(よく女子供が殺せるなという主人公の言葉に反応して)簡単だ、動きがのろいからな!」とか。
パロられるために生まれたとしか思えないくらい、とにかく名セリフ名シーンのオンパレード。
しかし酷い戦場をありのままに映画にしたかった(反戦という意味すらなく)という監督の言葉どおり、映画としてみせるためのあらゆる小ネタを搭載しつつも「ホント戦争は地獄だぜヒャッハハハァー!」なわけである。
ラスト、死にゆくベトコンの少女をみて愕然としてしまう兵士らのシーンでそれがわかる。
圧巻なのがエンディングの行進。
燃え盛る戦場を背景に兵士たちがミッキーマウスマーチを歌いながら行軍する*7。
ディズニーといえば夢の国のふりをした資本主義の権化である。
ちょっとした狂気である。
なんという皮肉な演出。これぞアメリカ。最高である*8。
なんだか全く葉巻にならないな。
とりあえずキューバ旅行前に葉巻を買いたくて聴いていた曲が今日のタイトル。
フランス最強のモテエロおやじゲンズブールがフランスの国民的女優ドヌーヴとデュエットしてます。
邦題は「神様はハバナタバコが大好き」だっけな。
男性パートでは、神様はハバナタバコが好きなんだぜ、(神様が吐いた煙であろう)グレーの雲が見えるぜ、でも夜も吸うんだぜ、俺みたいに、とかほざくのですが。
それに対して、あなたジターヌ*9しか吸わないくせに、とか返す歌です。
やりとりが大人のくせに子どもっぽくてかっこいいかなと。
*1:ちなみにfacebookは面倒&リア充アピール専用SNSなので連絡用以外にしばらく使うのをやめている
*2:とそれをネタにしたのかもしれない萩尾望都の『半神』という漫画。高校生くらいのときに友人が持ってたのみんなで回し読みしていた
*3:なんとブルーレイ2本立てで、もう1枚がこれがまたもう好きすぎる同じキューブリック監督の「シャイニング」!!!いままでみたなかで好きな映画10本を選ぶならこれは必ずランクインする。なんというかもう完璧なの。怖くてかっこいい。ニコルソン最高。奥さん顔芸すごい。斧のシーンとかは怖いを通りこしてクソワロ
*4:なんてうっかりいうと私も相当なアレっぽいな
*5:ていうかグズで役立たずにほほえみデブとかいうあだ名つけるの最高すぎるだろ。英語ではゴーマー・パイルというなんかのキャラらしいんだが
*6:ハートマンになりそこねた役者、最初はハートマンの役がついてたのに演技指導に来た元軍隊出身者が余りにも巧すぎたので役を奪われてキチガイ兵士になったが稀代の名セリフを吐けたのでそれもまた良かったのではなかろうか
*7:♪えまいしー、けーいわーい、えーむおゆーえすいー(M-I-C-K-E-Y, M-O-U-S-E)。ってこれほんとにそういう歌詞なのかな
*8:そういやえげつなさでは世界一を誇るデンマーク出身ラース・フォン・トリアー監督の「ドッグヴィル」。やっぱりアメリカの寓話であることを彷彿とさせる内容で、エンディングはデヴィッドボウイの「ヤングアメリカン」だった。ミッキーには負けるがアメリカだったと連想させる選曲で印象に残っている。しかしとんでもなく美人のニコール・キッドマンがチョークで書いたセットの家で次々にレイプされるシーンはエロくはあるもののまじでキツかった
*9:フランスの代表的なブランドですね。フランスでは葉っぱとフィルタと紙買って手巻きして吸ってる人が多かったな
encore une fois
昨日、パリが同時多発テロで大変なことになりました。
そんな中でまさかのブログ再開です。
フランスに行くところでこのブログは放置されていますが、果たしてどうなったのかというと。
約9ヶ月の滞在を無事にどころか、これ以上ないほどに満喫して帰国しました。
本当に嘘みたいにラッキーなことしか起こらなかった。
家も借りられたし、職も得たし、一生ものの友人とも出会ったし。
大好きだったバンドのまさかの解散の現場に居合わせたし。*1
飽きるほど旅したし。
でもビザが切れるタイミングで、あっさり日本に戻りました。
まあ早い話が日本がというか、日本食が恋しかったんですね。
あと疲れちゃってたんだな。
やっぱ海外で暮らすのはそれなりに神経はりつめるんですわ。
外出するときは割と汚い服で早足で、荷物には異様に気をつけていたな(スリ&強盗対策)。
仕事では最初とにかく言葉がわかんないから毎日働くのガクブルでしたし。
最初の頃は通勤メトロでリアルに震えてて、日本から遊びに来た友人にあきれられたものです。
何より、フランスに残ってくれ、同棲ビザ出すから!とかいってくれる仏男がいなかったですし…
外国人がビザなしで闇で働くの相当な犯罪になるので無理っす。
(まあ実際いますけど、結構)
そんで日本に帰国後。
フランスっぽい生き方に影響を受けて、労働意欲があまりなくなってしまって。
こいつはどうしたもんかと思いました。
とはいえ貯金も結構使ってしまったのでそうそうぼんやりしているわけにもいかず。
リーマンショックの余波で求人もまだ厳しい時期でした。
今度はフランスで超ラッキーだった反動なのかと思うほど、異様に再就職がきつかったですね。
フランスでちんたらしてきたようにしか見えない人など企業にとってはイミフなわけですよ。
(実際どんなにがんばってたかわかんないんだろうな…まあ私のアピールが下手なだけかもしれんが…)
ちなみにそのとき私、結婚出産しても仕事絶対辞めないほうがいいと思いましたね。
1年でこんなに厳しいんだから出産育児後3年して復帰とか超絶難関すぎですわ。
で、なんかちょっと公共よりのいまいちな職場で3年ばかり働いたあと。
比較的まともな現在の会社に転職しました。
転職のタイミングでなぞの病気(で腸がやられてとても具体的に書きづらいようなあれこれ経験)をしましたが。
幸い大事には至りませんで、いまもなんとかおとなしく会社員をやっています。
この辺でその後の人生の概要終わり。
さて。
テロの現場のひとつだったサンドニのstade de franceには、U2のコンサートでいきましたっけ。
ラッキーなことに某音楽サークルの大大大先輩のご夫妻とそのお子さんがパリに住んでいらっしゃって。
面識はなかったのですが、別の大先輩が紹介してくださり。
滞在中は本当にいろいろ親切にしていただきU2もチケットとってくださって、いっしょにみました。*2
ゴシック様式の大聖堂が大変有名で、マリーアントワネットのお墓もあるんではなかったかな。
入場する際の荷物チェックで一眼のカメラ持ち込み禁止って言われて取り上げられたの覚えてます*3。
ついでに大聖堂を観光して写真撮りまくってたんで、一眼持ってたんですね。
水の入ったペットボトルとかも取り上げられてた気がします。
だからセキュリティ機能してるのに、よくテロリスト爆弾物持って入れたなって思いました。
ニュースでは現場に居合わせた人が花火かと思ったって言ってたそうですが。
なんだかフランスも危ない国になってしまいましたね。
というかもはや全世界的に危ないんではないかな。
実はこないだ思い立ってキューバ行ったんですが(まあいずれそれも書きます)。
例えばキューバのゲリラ戦が世界各地で突然勃発しうると想像してみたまえですよ。
例えばラグビーワールドカップやっほーとか盛り上がってる東京は渋谷のスクランブル交差点で。
うっかりテロリストが銃乱射しちゃうってことですよ?
怖すぎる。
だから東京オリンピックなんておいおい喜んでる場合じゃないよ、
テロリストの格好の餌食で危険極まりないよ、と心配だったのですが…
気づけば超夜更けになってたので、とりあえずこの辺でやめておきます。
明日休日出勤だしな。
ずいぶん久々にもの書いたのでペース悪いし、まだとても見せられたもんじゃないですね。
キーワードリンクのつけ方とかも覚えてないや。
まあ我慢してください、あと5〜6エントリーくらい書けばそこそこ調子戻るはず。
ではまた。多分。
あ、今日のタイトルはフラ語で「もう一回」って意味でした。
この曲の歌いだしですね。
その名も「Tanka I」です。
「もう一回」といえば大塚愛のあーたしさくらんぼ♪ですけど、
そいやこないだどっかの店でかかってた大塚愛のプラネタリウム、なんの曲かわからないのにそらで歌える自分に仰天しましたっけ…
どうせなんでそれものっけてみよう。
*1:はい。衝撃ですね。キャンセルされたその場にいましたね。かわりにスカバンドのMadnessが2度ステージやってくれれて、しかも彼らの定番の決めセリフであるらしい"We... are... Madness"ってのを"We... are... not Oasis... We...are... Madness"って言ってくれてていい人たちだなあとにわかファンになりました。
*2:360° Tourですね。すごいセットでした。「年々派手になる」と仰ってましたっけ。ここで聴いてめちゃくちゃ好きになったのがUltravioletでした。
*3:あとスタジアム入る前に、おなかすいたなー、でもお金あんま持ってないなー、って、その辺のパン屋でクロワッサン(1.1ユーロ、150円くらいかな)買って食べたのも覚えてます。フランスで一番安い食べ物っていったらパンなんで。日本の食事情豊か過ぎですよ、おにぎり100円とか牛丼300円とか天国ですよ。サンドイッチなんてコンビニで200円とかでしょうけどフランスだとちょっと具が入ってるだけで500円くらい平気でしちゃいますもん
The Long Goodbye
※レイモンド・チャンドラー没後50年の日に。
先日本屋で『ロング・グッドバイ』買いました。
ペーパーバックになるのを待ってたんですよ。
ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)
- 作者: レイモンド・チャンドラー,村上春樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/03/06
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元々はこんなにかっこよかったんだってばよ。
- 作者: レイモンド・チャンドラー,村上春樹
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http://www.hayakawa-online.co.jp/lgb/
余談ですが、日本でしかお買い物できない商品券とかポイントとか使いまくりました。
カード利用でたまったポイントでゲットしたVISA商品券でDSソフトそろえ*2、
タワレコポイントでThe Bird & The Beeの2作目*3、アシュケナージのショパン名曲集*4買いました。
んで、村上春樹訳ですよ。
いままで出てる村上春樹の訳本のなかでは、
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『グレート・ギャツビー』を持ってます。
キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)
- 作者: J.D.サリンジャー
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オトナになりきれないホールデン君には村上春樹調が似合う。
野崎孝訳より数倍面白くて数倍きゅんときたです。*5
が。
ギャツビーは無理だった。。
野崎さん圧勝。
村上訳で読もうと思ったのにむしろ野崎訳を買ってきて村上訳放置。
- 作者: フィツジェラルド,野崎孝
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野崎訳「さあ 金色帽子を被るんだ それであの娘がなびくなら」(手元に本がないのでウロ覚えすいません)
村上訳「もしそれが彼女を喜ばせるのであれば、黄金の帽子をかぶるがいい。」
判定:野崎>村上
敗因:リズムの差
あとは野崎訳「僕がまだ年若く、いまよりずっと傷つきやすい心をもっていた時分に」が、
高校のときやってた芝居のセリフとして耳に残ってたので別の訳だと違和感がある。
(こっちは単に個人的思い入れ)
そしていちばん無理なのがいわずもがなの、
「オールド・スポート」。
ナンジャソリャ、てなる。
アガサ・クリスティのポアロシリーズで、ポアロが「モナミ」っていうのとわけが違うだろっ。*6
まあオールド・スポート初登場シーンは“あなた”にルビふってオールド・スポートになっているのだがね。
それでも無理じゃっ。
そして『ロング・グッドバイ』も。*7
残念ながらのっけからちょと違和感あり。
まず「Rolls-Royce」を“ロールズロイス”と書かないでくれ。
音的には正しいのかもしれないけど、PCでも一発変換されないくらい、
おおかたの日本人にとってはロールスロイスという響きこそが、
実際のロールスロイスを連想させるのじゃないか。
あと“サンセット・ブールヴァード”も無理ですよ。
映画「サンセット大通り」も“大通り”って表記だから雰囲気出てくるのであって。
ブールヴァードはむしろブルーバードを思い出してしまうよ。
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薄汚れた日産ブルーバードが通りを走っていく映像が目に浮かんだものだよ。
(明らかに私の勘違いです)
脱線。
こういう勘違いってほんとにたくさんあってですね。
デヴィッドボウイの「ロックンロールの自殺者」*8でも、
“Time takes a cigarette, puts it in your mouth”ってのをなんとなく、
「時がタバコのように俺を吸っていく〜♪こぼれ落ちる灰のようにすりへっていく俺の人生〜♪」
って歌なんだと勝手に思っていたりした。
完全なる勘違いだけど、結構カコヨサゲじゃない?
(火星人ルックだぜ☆)
話を戻そう。
原作が好きすぎるとこだわりがでてくるんだと思うんですよ。
しかしこだわりって、翻訳の場合、じゃまだったりもすると思うんですよ。
なんつうか、翻訳も多数決であり、美人コンテストである、というか。
異国の情緒慣習、作品の風情味わいetc.をこわさないように伝えるのはもちろんだけど、
でも同時にできるだけ大勢の人に、正しいイメージを喚起させる言葉を使ってほしいの。
そこをかっこよく“ブールヴァード”とか書かれた瞬間にわからなくなるわけ。
日産ブルーバードへの転換が脳内で勝手に起きてしまうわけ。
英語下手な日本の私は。*9
ハナ的には、村上春樹の小説のよさって、武骨なとこだと思っているのです。
例えば、地下鉄サリン事件の被害者にインタビューしまくって『アンダーグラウンド』書いてしまうような。
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地道な一般人である主人公が、身近なところからとある歪みに巻き込まれたものの、
歪みの原因である間違ったものに素手で闘いを挑む、という無謀かつ武骨な姿勢がすごいからなのです。
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さすがの見事な比喩で述べられておられましたが、*10まさにそこなのですよ。
だからこそ村上春樹の小説は、読む価値があるのです*11
でも翻訳になると、村上さんはただ作品のファンになってしまって、
かっこよさをかっこよさとして、できるだけそのままに温存したいのでしょう。
しかしかっこよさの受信アンテナがない人にとっては、*12
それらの真空パック的な完全保存策は、意味不明な言葉の羅列にすぎない、
こともあるのです、ブールヴァードがブルーバードにすりかわるように。
乏しい自分の知識をあさって、妙なイメージを無理やり捻出してしまうのです。
翻訳って難しいですね。
翻訳に限らず、文字でイメージを伝えるのって本当に難しいです。
頭の中に映像が浮かんでいても、それをどうやって言葉で描写したらよいのか。
あるいは、読んでもらう人ひとりひとりの独自のイメージに頼るのか。
映像として見えているものを、文字で描写しても追いつかない。
どこまで読んでもらう人の想像力にまかせるのか、みたいな。
つまりたったひとこと「家」と書いてあるだけだと、
読者の数だけ、いや読者の数×その読者が想像する数パターンの「家」が存在するのです。
ある人にとっては自分の生まれ育った家のイメージだったり、
ある人にとっては毎日とおりすがる大きなお屋敷のイメージだったり、
またある人にとっては、自分が思い描いた架空の家のイメージだったり。
もうちょっと修飾されて「緑の切妻屋根の家」とあったとしても*13、
切妻屋根ってなんじゃ、から始まって、
解説をよんだり挿絵をみたり*14辞書を引いてみたり、
いまの時代だとぐぐってみたり、あるいはなにもせずになんとなくイメージしてみたり、
まあおおむね切妻屋根らしきものがイメージできたとします。
しかし「緑」は?
ダークグリーンであったりモスグリーンであったりエメラルドグリーンであったりするわけです。
で、その家の建っている場所は?
日当たりがよかったり、木々に囲まれていたり、芝生が青青としていたり、
前に小道が延びていたり、家同士がひしめき合っていたり、
高台にあったり窪地にあったりするわけです。はあはあ。
同じ本を読んでも、イメージは千差万別なのです。
すなわち「同じ本を読んだ」なんていうことは、厳密にはありえないのです。
同じ本から受けるイメージが、同じはずはないのですから。
翻訳の場合、著者→訳者→読み手と、訳者のバイアスが加算されます。
著者のイメージが、訳者のイメージによって色づけされている文章になります。
この2重のバイアスをなんとか軽減するためには、原文でしか読まないか、
もしくは好きな小説家を選ぶかのごとく、好きな訳者も選ぶべきなのかもしれません(無理だけど)。
原文で読んでも、先述のデヴィッド・ボウイの例のような、美しき誤解が生じることもあるしね。
でも原文読んでみたらいけた、って経験ならありますぜ。ポール・オースター。
柴田元幸訳で読んでいたときはこの作家どうも苦手、って思っていたのですが、
ためしに原文で読んでみたらかなり面白くてびっくりした。*15
これは単にあうあわない以外に、柴田先生は小説家ではない、というのもあるのかも。
偉い文学者相手に失礼ながら。
文章で人を楽しませたり感動させたりするのって、できるようでできない特殊技術なのではと思います。
演奏家とかに例えるとわかりやすいかもしれませんが、同じ曲を弾いてもプロの演奏は感動だけど、
ちょっとうまいアマチュアの人だと、まあ上手だね程度ってことありますよね。
または料理人とか。同じ材料を使っても、一流シェフとお料理上手な主婦では、*16やっぱシェフですよね。
プロが醸し出す絶妙に至るまでには、わずかだけれども決定的な違いがあります。
私的には特殊技術に近いと思うんだけど、その違いがいわゆる「才能」ってやつかもしれません。
うーん。ことばは奥が深いぜ。国境またぐともっと奥が深いぜ。
ちょっと翻訳をはじめてみたくなった今日この頃のハナであります。
フラ語でやれよって感じですよね。そうですよね。
やるなら超絶シンプルな『悪童日記』とかかな。大好きな小説です。*17
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もともとハンガリー生まれで、難民としてフランス語圏のスイスに亡命しています。
その辺の経緯は著作『文盲』にあります。
- 作者: アゴタ・クリストフ,堀茂樹
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「巴里のアメリカ人」*18ならぬ「巴里の日本人」になるのだ。
もしかしたらフランスに行きたいのってただ単に異邦人*19として過ごす感覚を味わいたいだけなのかもしれません。
*1:パリ行きのときに空港で買っていった『わたしを離さないで』は、心からこの本を選んでよかったとむせび泣き級に感動しました
*2:名作との呼び声高いこれとかね
*3:小山田先生のリミックスが聴きたかっただけ
*4:幻想即興曲を楽譜見て弾くのがめんどいんでところどころ耳コピするため
*5:まあ、タイトルのリリシズムでは野崎氏に軍配があがるわけだが。だって『ライ麦畑でつかまえて』ですよ?タイトルだけで手に取りたくなりますよ??そいや私が小学校くらいの頃に読みあさってた少女小説ティーンズハートシリーズにも、つかまえてシリーズってあった希ガス。 大島弓子が選んだ大島弓子選集 1 ミモザ館でつかまえて (MFコミックス)
*6:ハヤカワ文庫から出てたシリーズかな。ポアロ好き〜。数ある名探偵のなかでもいちばん好きかも。なんかキャラが立ってるから。灰色の脳細胞とかトランプの家とかいちいちつっこみどころが多いんだよな
*7:ていうかやっぱタイトルは『グレート・ギャツビー』も『華麗なるギャツビー』が、『ロング・グッドバイ』も『長いお別れ』のほうが断然ぐっとくるんだけどな。
*8:浪人のとき、センター試験の最中に聴いて聴いて聴きまくっていた
*9:川端康成&大江健三郎とかけていることをわかってほしい
*10:文藝春秋に載ってます。クーリエジャポンにも載ってます。
あとここにもあった…けどこの“翻訳”はだれがやったんだ?笑
http://www.47news.jp/47topics/e/93925.php
*11:英語だと“worth reading”ですか
*12:海外の大学で学んだか教えたかした経験もありますしね。うろおぼえですいませんが
*13:ピンときたあなた、そうです。もちろん『赤毛のアン』の住んでいた家ですよ。
*14:ていうか挿絵も著者以外だとバイアスになりうるんだよな
*15:こんとき読んだのが『幽霊たち』です。スピード感が違った…
*16:意図せずしてシャレになりました。シェフと主婦。
*17:この先どんな小説からもこれほどの衝撃は受けないだろうとすら思う。ほんとにすげーんだから
*18:観たことないが音楽のおかげでタイトルは知っている。ガーシュウィンだよね?
*19:そういや実は原作ちゃんと読んだことない…ヴィスコンティが撮った映画はものすごいよかった。有楽町でやってたヴィスコンティ特集で観ました