Lucid Dreams
Juice WRLD、ジュース・ワールドが亡くなった。
全て作られた伝説なんじゃないか、漫画か映画かなにかのよくできたストーリーなんじゃないかと思うほど若すぎる天才の夭折だった。
私はヒップホップやラップはよくわからないので今まであまり聴いてこなかった。
つまり知識も下地も琴線もない。
それなのに彼の曲だけは嘘みたいに、心のもう枯れかけた部分にぶすっと刺さって、むりやりに養分を流し込まれるみたいに届いて、しばらく忘れてた音楽へのときめきやらなんやらを引きずりだされてしまう、そんな感覚になる。
普段なら絶対出会わない曲なのだが、学生時代から参加している某サークルの、その年のビルボードTop100を歌うという年末イベントに参加すべく、昨年末に付け焼き刃で歌えそうな歌を物色しているときに出会った。
2018年は彼のLucid Dreamsだけが私のアンテナに唯一ひっかかった曲だった*1
スティングのShape of My Heartのサンプリングなんてそりゃロックファンはあっさり心わしづかまれますよ。*2
去年のいまはつらい時期だった。
つらいことをてきぱきと片付けた夜、私はこの曲をかけっぱなしにして歩いた。
冷静なつもりだったが、片付けたことへの変な高揚感にわなわなと震えながら、足がもつれるかと思うほどの速さで西新宿の地下道をずんずん歩いた。
歩きながらLucid Dreamsをイヤホンで聴きながら小声で歌った。
それから歩道橋から欠けた月をみた。
きれいな月だった。
他の人も立ち止まって写真を撮っていた。
私も他の人にまぎれて撮った。
この曲では誰かが私のことをそう思ってるだろうと思ってるようなことを歌ってた。
私は彼の歌を聴いて、自分が悲しいというよりもその誰かが私のことを考えて悲しいと思ってることを想像して切なくなった。
それからしばらくこの曲は封印していた。
同じ時期に聴いていた他の曲は平気でも、この曲はどうしても昨日まで聴けなかった。
彼が急逝してはじめて聴き直した。
私のつらい時間はもう過ぎたけど、その時に感じた切なさは曲の中に閉じ込められていて、聴くと少しだけリアルに思い出せる。
今年のTop100の100位に入っていたRobberyをさっき聴いた。
どうかすると幼いくらいに柔らかい声と、ふわっと浮き上がるような旋律。
余りにもセンスが良すぎる、バックに流れるピアノのサウンド。
ポストロックみたいなサウンドとラップを合わせるなんて。
私のような偏屈までもあっさり取り込まれてしまう。
何が良いのか解明しようとする頭でっかちな音楽オタクの精神もすり抜けていく。
ただ不思議に良い。
天才があまりのスピードで駆け抜けると早死にしてしまうという典型的な例をみてしまったと感じている。
佳人薄命。
なんとなくリヴァー・フェニックスを思い出した。
天国に召されてしまったから、我々は地上に遺されたわずかな音源を聴くしかない。
でも天国に行く前に地上にも少しだけ遺してくれて良かった。
天に昇る前に間に合った。
RIP.
Goodbye & Good Riddance [Explicit]
- 発売日: 2018/07/11
- メディア: MP3 ダウンロード