The Long Goodbye
※レイモンド・チャンドラー没後50年の日に。
先日本屋で『ロング・グッドバイ』買いました。
ペーパーバックになるのを待ってたんですよ。
ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)
- 作者: レイモンド・チャンドラー,村上春樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/03/06
- メディア: 新書
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元々はこんなにかっこよかったんだってばよ。
- 作者: レイモンド・チャンドラー,村上春樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/03/08
- メディア: 単行本
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http://www.hayakawa-online.co.jp/lgb/
余談ですが、日本でしかお買い物できない商品券とかポイントとか使いまくりました。
カード利用でたまったポイントでゲットしたVISA商品券でDSソフトそろえ*2、
タワレコポイントでThe Bird & The Beeの2作目*3、アシュケナージのショパン名曲集*4買いました。
んで、村上春樹訳ですよ。
いままで出てる村上春樹の訳本のなかでは、
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『グレート・ギャツビー』を持ってます。
キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)
- 作者: J.D.サリンジャー
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/04
- メディア: 新書
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- 作者: スコットフィッツジェラルド,Francis Scott Fitzgerald,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
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オトナになりきれないホールデン君には村上春樹調が似合う。
野崎孝訳より数倍面白くて数倍きゅんときたです。*5
が。
ギャツビーは無理だった。。
野崎さん圧勝。
村上訳で読もうと思ったのにむしろ野崎訳を買ってきて村上訳放置。
- 作者: フィツジェラルド,野崎孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989/05/20
- メディア: 文庫
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野崎訳「さあ 金色帽子を被るんだ それであの娘がなびくなら」(手元に本がないのでウロ覚えすいません)
村上訳「もしそれが彼女を喜ばせるのであれば、黄金の帽子をかぶるがいい。」
判定:野崎>村上
敗因:リズムの差
あとは野崎訳「僕がまだ年若く、いまよりずっと傷つきやすい心をもっていた時分に」が、
高校のときやってた芝居のセリフとして耳に残ってたので別の訳だと違和感がある。
(こっちは単に個人的思い入れ)
そしていちばん無理なのがいわずもがなの、
「オールド・スポート」。
ナンジャソリャ、てなる。
アガサ・クリスティのポアロシリーズで、ポアロが「モナミ」っていうのとわけが違うだろっ。*6
まあオールド・スポート初登場シーンは“あなた”にルビふってオールド・スポートになっているのだがね。
それでも無理じゃっ。
そして『ロング・グッドバイ』も。*7
残念ながらのっけからちょと違和感あり。
まず「Rolls-Royce」を“ロールズロイス”と書かないでくれ。
音的には正しいのかもしれないけど、PCでも一発変換されないくらい、
おおかたの日本人にとってはロールスロイスという響きこそが、
実際のロールスロイスを連想させるのじゃないか。
あと“サンセット・ブールヴァード”も無理ですよ。
映画「サンセット大通り」も“大通り”って表記だから雰囲気出てくるのであって。
ブールヴァードはむしろブルーバードを思い出してしまうよ。
サンセット大通り スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- 発売日: 2008/01/18
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薄汚れた日産ブルーバードが通りを走っていく映像が目に浮かんだものだよ。
(明らかに私の勘違いです)
脱線。
こういう勘違いってほんとにたくさんあってですね。
デヴィッドボウイの「ロックンロールの自殺者」*8でも、
“Time takes a cigarette, puts it in your mouth”ってのをなんとなく、
「時がタバコのように俺を吸っていく〜♪こぼれ落ちる灰のようにすりへっていく俺の人生〜♪」
って歌なんだと勝手に思っていたりした。
完全なる勘違いだけど、結構カコヨサゲじゃない?
(火星人ルックだぜ☆)
話を戻そう。
原作が好きすぎるとこだわりがでてくるんだと思うんですよ。
しかしこだわりって、翻訳の場合、じゃまだったりもすると思うんですよ。
なんつうか、翻訳も多数決であり、美人コンテストである、というか。
異国の情緒慣習、作品の風情味わいetc.をこわさないように伝えるのはもちろんだけど、
でも同時にできるだけ大勢の人に、正しいイメージを喚起させる言葉を使ってほしいの。
そこをかっこよく“ブールヴァード”とか書かれた瞬間にわからなくなるわけ。
日産ブルーバードへの転換が脳内で勝手に起きてしまうわけ。
英語下手な日本の私は。*9
ハナ的には、村上春樹の小説のよさって、武骨なとこだと思っているのです。
例えば、地下鉄サリン事件の被害者にインタビューしまくって『アンダーグラウンド』書いてしまうような。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/02/03
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地道な一般人である主人公が、身近なところからとある歪みに巻き込まれたものの、
歪みの原因である間違ったものに素手で闘いを挑む、という無謀かつ武骨な姿勢がすごいからなのです。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/09/30
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さすがの見事な比喩で述べられておられましたが、*10まさにそこなのですよ。
だからこそ村上春樹の小説は、読む価値があるのです*11
でも翻訳になると、村上さんはただ作品のファンになってしまって、
かっこよさをかっこよさとして、できるだけそのままに温存したいのでしょう。
しかしかっこよさの受信アンテナがない人にとっては、*12
それらの真空パック的な完全保存策は、意味不明な言葉の羅列にすぎない、
こともあるのです、ブールヴァードがブルーバードにすりかわるように。
乏しい自分の知識をあさって、妙なイメージを無理やり捻出してしまうのです。
翻訳って難しいですね。
翻訳に限らず、文字でイメージを伝えるのって本当に難しいです。
頭の中に映像が浮かんでいても、それをどうやって言葉で描写したらよいのか。
あるいは、読んでもらう人ひとりひとりの独自のイメージに頼るのか。
映像として見えているものを、文字で描写しても追いつかない。
どこまで読んでもらう人の想像力にまかせるのか、みたいな。
つまりたったひとこと「家」と書いてあるだけだと、
読者の数だけ、いや読者の数×その読者が想像する数パターンの「家」が存在するのです。
ある人にとっては自分の生まれ育った家のイメージだったり、
ある人にとっては毎日とおりすがる大きなお屋敷のイメージだったり、
またある人にとっては、自分が思い描いた架空の家のイメージだったり。
もうちょっと修飾されて「緑の切妻屋根の家」とあったとしても*13、
切妻屋根ってなんじゃ、から始まって、
解説をよんだり挿絵をみたり*14辞書を引いてみたり、
いまの時代だとぐぐってみたり、あるいはなにもせずになんとなくイメージしてみたり、
まあおおむね切妻屋根らしきものがイメージできたとします。
しかし「緑」は?
ダークグリーンであったりモスグリーンであったりエメラルドグリーンであったりするわけです。
で、その家の建っている場所は?
日当たりがよかったり、木々に囲まれていたり、芝生が青青としていたり、
前に小道が延びていたり、家同士がひしめき合っていたり、
高台にあったり窪地にあったりするわけです。はあはあ。
同じ本を読んでも、イメージは千差万別なのです。
すなわち「同じ本を読んだ」なんていうことは、厳密にはありえないのです。
同じ本から受けるイメージが、同じはずはないのですから。
翻訳の場合、著者→訳者→読み手と、訳者のバイアスが加算されます。
著者のイメージが、訳者のイメージによって色づけされている文章になります。
この2重のバイアスをなんとか軽減するためには、原文でしか読まないか、
もしくは好きな小説家を選ぶかのごとく、好きな訳者も選ぶべきなのかもしれません(無理だけど)。
原文で読んでも、先述のデヴィッド・ボウイの例のような、美しき誤解が生じることもあるしね。
でも原文読んでみたらいけた、って経験ならありますぜ。ポール・オースター。
柴田元幸訳で読んでいたときはこの作家どうも苦手、って思っていたのですが、
ためしに原文で読んでみたらかなり面白くてびっくりした。*15
これは単にあうあわない以外に、柴田先生は小説家ではない、というのもあるのかも。
偉い文学者相手に失礼ながら。
文章で人を楽しませたり感動させたりするのって、できるようでできない特殊技術なのではと思います。
演奏家とかに例えるとわかりやすいかもしれませんが、同じ曲を弾いてもプロの演奏は感動だけど、
ちょっとうまいアマチュアの人だと、まあ上手だね程度ってことありますよね。
または料理人とか。同じ材料を使っても、一流シェフとお料理上手な主婦では、*16やっぱシェフですよね。
プロが醸し出す絶妙に至るまでには、わずかだけれども決定的な違いがあります。
私的には特殊技術に近いと思うんだけど、その違いがいわゆる「才能」ってやつかもしれません。
うーん。ことばは奥が深いぜ。国境またぐともっと奥が深いぜ。
ちょっと翻訳をはじめてみたくなった今日この頃のハナであります。
フラ語でやれよって感じですよね。そうですよね。
やるなら超絶シンプルな『悪童日記』とかかな。大好きな小説です。*17
- 作者: アゴタクリストフ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05
- メディア: 文庫
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もともとハンガリー生まれで、難民としてフランス語圏のスイスに亡命しています。
その辺の経緯は著作『文盲』にあります。
- 作者: アゴタ・クリストフ,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/02/15
- メディア: 単行本
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「巴里のアメリカ人」*18ならぬ「巴里の日本人」になるのだ。
もしかしたらフランスに行きたいのってただ単に異邦人*19として過ごす感覚を味わいたいだけなのかもしれません。
*1:パリ行きのときに空港で買っていった『わたしを離さないで』は、心からこの本を選んでよかったとむせび泣き級に感動しました
*2:名作との呼び声高いこれとかね
*3:小山田先生のリミックスが聴きたかっただけ
*4:幻想即興曲を楽譜見て弾くのがめんどいんでところどころ耳コピするため
*5:まあ、タイトルのリリシズムでは野崎氏に軍配があがるわけだが。だって『ライ麦畑でつかまえて』ですよ?タイトルだけで手に取りたくなりますよ??そいや私が小学校くらいの頃に読みあさってた少女小説ティーンズハートシリーズにも、つかまえてシリーズってあった希ガス。 大島弓子が選んだ大島弓子選集 1 ミモザ館でつかまえて (MFコミックス)
*6:ハヤカワ文庫から出てたシリーズかな。ポアロ好き〜。数ある名探偵のなかでもいちばん好きかも。なんかキャラが立ってるから。灰色の脳細胞とかトランプの家とかいちいちつっこみどころが多いんだよな
*7:ていうかやっぱタイトルは『グレート・ギャツビー』も『華麗なるギャツビー』が、『ロング・グッドバイ』も『長いお別れ』のほうが断然ぐっとくるんだけどな。
*8:浪人のとき、センター試験の最中に聴いて聴いて聴きまくっていた
*9:川端康成&大江健三郎とかけていることをわかってほしい
*10:文藝春秋に載ってます。クーリエジャポンにも載ってます。
あとここにもあった…けどこの“翻訳”はだれがやったんだ?笑
http://www.47news.jp/47topics/e/93925.php
*11:英語だと“worth reading”ですか
*12:海外の大学で学んだか教えたかした経験もありますしね。うろおぼえですいませんが
*13:ピンときたあなた、そうです。もちろん『赤毛のアン』の住んでいた家ですよ。
*14:ていうか挿絵も著者以外だとバイアスになりうるんだよな
*15:こんとき読んだのが『幽霊たち』です。スピード感が違った…
*16:意図せずしてシャレになりました。シェフと主婦。
*17:この先どんな小説からもこれほどの衝撃は受けないだろうとすら思う。ほんとにすげーんだから
*18:観たことないが音楽のおかげでタイトルは知っている。ガーシュウィンだよね?
*19:そういや実は原作ちゃんと読んだことない…ヴィスコンティが撮った映画はものすごいよかった。有楽町でやってたヴィスコンティ特集で観ました